金融庁が公表した2026年度の税制改正要望の中で、新NISAのさらなる拡充が検討されています。
注目ポイントは、保有している投資信託の金額そのままで別の商品に入れ替えられる「スイッチング」の導入や、未成年でもつみたて枠を利用できる年齢制限の撤廃です。
これにより投資の柔軟性が大幅に向上し、早期からの資産形成も可能になります。一方で、贈与税などの注意点もあります。
本記事では、改正のポイントを整理し、メリット・デメリットを含めて初心者向けに解説します。
新NISAで検討中の改正ポイントはこの3つ
金融庁が2026年度の税制改正要望で示した内容には、現行NISAをさらに使いやすくするための注目ポイントが3つあります。
まだ検討段階ではありますが、とても魅力的な改正案です。
1.スイッチングの解禁
保有している投資信託の金額をそのまま別の商品に入れ替えられるように検討中。柔軟な運用が可能になり、後発の優良投資信託への乗り換えも可能に。
2.未成年でもつみたて枠が利用可能に
つみたて枠の年齢制限を撤廃する案。こどもでも早期から資産形成ができる一方、贈与税や家庭の負担も考慮が必要。
3.毎月分配型投資信託の購入可能
高齢者の要望が多い毎月分配型投信をNISAで購入できるよう検討中。定期的な分配を受け取りたい人にメリットがありますが、タコ足配当などに注意。
これら3つのポイントについて、それぞれのメリット・デメリット・注意点を解説していきます。
スイッチング解禁で投資先の変更可能に
現行のNISAでは保有している投資信託を売却した場合、使った非課税枠は翌年以降にしか復活しません。また、復活するのは売却額ではなく元本部分(簿価)だけになっています。
しかし金融庁の改正案では「スイッチング」が可能になることが検討されています。スイッチングとは、保有している商品を売却せずに、同じ金額を使って別の商品に入れ替えられる仕組みです。
これにより、得られた利益が現金として戻ってくるわけではありませんが、NISA口座の中で評価額を膨らませることができるかもしれません。
スイッチングのメリット
・非課税枠を活用しやすい
売却による非課税枠の復活は簿価のみですが、スイッチングならそのままの金額で別の商品に再投資できるため、評価額全体を非課税で運用可能です。
・長期でも投資先の見直しがしやすい
10年程度ならいいかもしれませんが、30年・40年と超長期になると、先行きが不透明な投資先も出てきます。スイッチングが可能になることで、長期でも柔軟に資産配分を見直すことができます。
・後発の優良投資信託への乗り換えが可能
投資期間が長期になると「現在保有している投資信託の上位互換」が後発でリリースされる可能性があります。現行制度では、乗り換えようと思っても一度売却するとNISA口座内の保有資産が減ってしまうため、非効率です。
しかしスイッチングが可能になれば、評価額をそのままで新しい投信に入れ替えられるため、例えば手数料の低い後発優良投信などへも、乗り換えやすくなります。
スイッチングのデメリット・注意点
・自ら不要な売買をしてしまう可能性
スイッチングが可能になることで、「別の投信に乗り換えたほうがよいのでは」と不必要に売買してしまうリスクがあります。右往左往してしまっては長期投資になりませんので、短期的な値動きに惑わされず、長期目線で運用方針を維持することが重要です。
・証券会社の営業員から買い替えを勧められる可能性
店舗型の証券会社を利用していると、投資先の乗り換えを促す営業が入る場合があります。買い替えさせることで証券会社は販売手数料を得られるため、必ずしも投資家にとって最適な提案とは限りません。
このように、スイッチングが可能になると、投資先の選択肢が増え柔軟な対応ができるようになります。ただし長期投資の本質を見失わず、不要な売買は避ける心構えが必要です。
未成年でもつみたてNISAが利用可能

現行のNISA制度は、18歳未満は利用することができません。
今回の金融庁の改正案ではつみたて投資枠に限り年齢制限を撤廃し、未成年でもNISAを活用した資産形成が可能になる方向で検討されています。
こども用NISAのメリット
・早期から資産形成を始められる
0歳から投資をスタートすれば、成人までに18年、定年までは65年の運用をすることができます。長期投資による複利の効果が大きく、莫大なリターンを期待できます。
・非課税枠を広く活用できる
たとえば0歳のときに100万円を入れておけば、18歳時点で300万を超えることが期待されます。学資保険のように、最もお金がかかる大学進学の時期に備えることができます。
・金融教育につながる
日本人は金融リテラシーが低いと言われますが、こどものうちから自分名義の口座があることで、投資を学ぶきっかけになるかもしれません。
こども用NISAのメリット・注意点
・経済格差が拡大する懸念
資産を投じられる家庭とそうでない家庭で、こどもの資産形成に大きな差がつきます。つみたて投資枠のみですが、親が15年かけて1800万円の枠を埋めることもできてしまいます。ただし、それができる家庭はごくわずかでしょう。
・贈与税の対象になる可能性
年間110万円までは贈与税はかかりませんが、これを超えた分は贈与税の対象となります。
・定額贈与になる可能性
さらに、贈与税がかからない”毎年110万円”についても、定額贈与に該当すればほとんどが贈与税の対象になります。特に、積立設定による一定額の定期的な贈与は、「元から1800万円を贈与する予定だった」と見なされる可能性が高いです。
贈与税には特に注意が必要です。「こども用のNISAは定額贈与に該当しない」などと明示されない限りは、贈与税の対象と考えた方が良いでしょう。
こどもの将来のための100万円、200万円程度ならまだしも、NISA枠を満額埋めるような富裕層に対しては、課税強化する側面もあるのかもしれません。
つみたて投資枠における非課税限度額の上限は、600万円と勘違いされがちですが1800万円です。こちらの記事で詳しく説明しています。
✅NISAの疑問を解消!複数持ちできる?売却で非課税枠はどうなる?
”毎月分配型投資信託”が対象商品に
毎月分配型の投資信託について、NISAでの取り扱いを認める方向が検討されています。
本来は毎月分配金を出す投資信託は、長期的な資産形成には不向きです。そのためNISA制度の目的に合わないとして、現行では対象外となっています。
しかし、主に高齢者など、資産形成よりも定期的なキャッシュフローを必要とする層もいます。こうした需要に対する拡充案です。
毎月分配型投資信託のメリット
・毎月のキャッシュフローを確保できる
年金や給与に“上乗せ”する形で分配金を受け取ることができ、生活費の補填に使いやすいです。
・出口戦略をシンプルに
毎月分配金を受け取ることで、資産を取り崩す(売却する)必要がなくなり、出口戦略の難易度が下がります。
・分配金が非課税
NISA枠で購入することで、毎月の分配金を非課税で受け取ることができます。
※外国での課税は発生します
毎月分配型投資信託のデメリット・注意点
・複利が効きにくい
分配金として資産の一部が毎月払い出されてしまうため、長期投資の複利効果が弱まります。
・毎月分配型投資信託自体のリスク
元本取り崩しであるタコ足配当、割高な運用手数料といった、毎月分配型投資信託そのもののリスクがあります。
いずれにしろ毎月分配型の投資信託は、資産形成期・現役世代の投資家には不向きといえます。あくまで高齢者向けの投資商品であり、NISA制度においても同様です。
こちらの記事で詳しく説明しています。
✅【毎月分配型の投資信託】おすすめできない理由とデメリットを解説
まとめ|新NISA改正を検討中のポイント
金融庁が公表した2026年度の税制改正要望には、投資家にとって魅力的な検討事項が含まれています。
具体的には、保有商品を売却せずに別商品へ切り替えられるスイッチング制度の導入、NISA口座の利用が未成年も対象に、そして毎月分配型投資信託の購入解禁が挙げられます。
これらの改正が実施されれば、投資の柔軟性が高まり、ライフステージに応じた資産形成が可能になります。また、早期からの投資を始めやすくなることで、家族単位での資産形成にとってもプラスです。
なにより新NISAは固定ではなく、今後も少しずつ使いやすく改善されていくことに期待が持てます。
投資枠の増額や、暗号資産など新たな投資対象の追加といった、将来のさらなる拡充にも注目していきたいですね。