年金はいつから貰う?繰り上げ繰り下げの損益分岐点と後悔しない選び方

制度解説
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年金は「65歳からもらう」が基本ですが、実は早くもらう(繰り上げ)・遅くもらう(繰り下げ)という選択も可能です。

65歳の金額を基準に早くもらう場合は減額され、遅くもらう場合は増額されます。

早くもらえる方が得と感じるか、増額される方が得と感じるかは人それぞれですが、老後の生活を左右する重要な選択になります。

この記事では、年金受給の繰り上げ・繰り下げ制度の仕組みから、損益分岐点、よくある後悔パターン、判断のポイントまで、FPの視点で解説します。

「自分は何歳からもらうべきか?」を考えるヒントにぜひお役立てください。

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年金の繰り上げ・繰り下げとは?|制度の基本

2025年現在、日本の公的年金は、原則として65歳から受給開始となります。しかし受給開始のタイミングは、自分で早めたり遅らせたりすることが可能です。

これがいわゆる年金の繰り上げ・繰り下げ制度です。

繰り上げや繰り下げによる年金受給額の増減は下記の通りです。

繰り上げ受給(60~64歳の間)
→1ヶ月早めるごとに0.4%減額(最大で60ヶ月繰り上げし24%減)

繰り下げ受給(66~75歳の間)
→1ヶ月遅らせるごとに0.7%増額(最大で120ヶ月繰り下げし84%増)

受給開始時期の繰り上げ・繰り下げは「1ヶ月単位」で選択可能です。ただし注意点として、一度受給を開始すると原則として変更はできません

年金をいつから受け取るか」は、老後の家計に大きなインパクトを与える、非常に重要な決断といえます。

年金の損益分岐点は何歳?繰り上げ・繰り下げで得する年齢

損益分岐点とは、「早く受け取り始めた場合」と「遅く受け取り始めた場合」の受給総額が逆転する年齢のことです。

つまり「何歳まで生きると、繰り上げ・繰り下げのどちらが得になるか」の年齢ですね。

60歳まで繰り上げ vs 通常受給

60歳から年金を繰り上げ受給した場合、毎月24%減額される代わりに5年間早くもらえます。一方で、65歳からの通常受給であれば満額もらえます。

この2つの受給額が同額になるのは、77歳前後が目安です。

  • 77歳より前に亡くなれば繰り上げが得
  • 77歳より長生きすれば繰り上げが損

ということになります。

75歳まで繰り下げ vs 通常受給

75歳まで繰り下げた場合、受給額は毎月84%増額されますが、もらい始めが10年遅くなります。

この2つの受給額が同額になるのは、87歳前後が目安です。

  • 88歳より前に亡くなれば繰り下げが損
  • 88歳より長生きすれば繰り下げが得

と言えますね。

損益分岐点は受給開始から12年

ここで、単純に受給額を比較して「得か損か」という損益分岐点の結論です。

繰り上げ・繰り下げのいずれの場合も、受給を開始してから約12年もらい続けると損益が均衡するというのが大まかな目安です。

受給開始から12年分の年金を受け取った時点で、それより早く受給開始したケースの受給額を上回ります。

12年間受給できる?「平均余命」に注目

年金の損益分岐点を考えるうえで重要なのが「平均で何歳まで生きられるか」です。

ただし、ここで見るべきは平均寿命ではなく平均余命、つまり「現在の年齢からあと何年生きるか」という考え方です。

まず平均寿命とは「生まれたばかりの赤ちゃんが、平均して何歳まで生きるか」という統計上の指標です。日本人は2025年時点では、

  • 男性:約81歳
  • 女性:約87歳

となっています。

一方で、平均余命の例をあげると

  • 65歳男性の平均余命:約19年(→84歳)
  • 65歳女性の平均余命:約24年(→89歳)

このように、若く亡くなってしまうケースが除かれ、年齢が引き上がります。

これを見ると、最大の75歳まで繰り下げたときの損益分岐点(およそ87歳)も現実的なラインであることがわかります。

男女の差に着目すると、2つめの結論として女性の方が繰り下げが有利ともいえそうですね。

繰り上げ・繰り下げの「後悔」パターンと「成功」パターン

年金の受給開始時期は、一度繰り上げを選ぶとその後の変更はできず、繰り上げた月数に応じた減額が一生続きます。

一方で繰り下げの場合は、75歳までの間で「もらいたい」と思ったタイミングで受給開始はできますが、65歳にさかのぼって請求することは原則できません。

それを踏まえて、後悔するパターンや成功するパターンを考えてみましょう。

よくある後悔パターン

  • 繰り上げの後悔:
    • 早めに年金をもらったが、結果的に長生きして受給総額が大きく減ってしまった
    • 減額された年金の範囲で、切り詰めて生活することになった

  • 繰り下げの後悔:
    • 繰り下げたものの、受給開始から12年経たずに死亡し、受給総額が少なかった
    • 働いて収入があるうちはいいが、無職の期間に資金不足に陥りかけた
    • 繰り下げて受給して総額で得をしたが、65歳以降も無理をして仕事を続けたことで健康を損なった

成功パターンの例

  • 繰り下げ成功例:
    • 75歳まで繰り下げて老後のゆとり資金を確保し、長寿に備えられた
    • 結果的に長生きし、受給総額が大きくなった

  • 繰り上げ成功例:
    • 60代前半で健康面に不安があり、早めに年金を受け取ることで安心感を得られた
    • 働けなくなった直後の収入源として有効だった
    • 結果的に長生きはできず、受給総額が大きくなった

年金の繰り下げ・繰り上げで後悔しない判断基準

年金の繰り上げ・繰り下げは「どちらが得か?」だけではなく、ライフプラン全体を見渡しながら、自分に合った選択をすることが必要です。

あえて極端な例をあげると、75歳まで無理して仕事を続け繰り下げたものの、仕事の負担から寝たきりになって100歳まで生きたとしましょう。

受給総額では大幅に得をしますが、後悔しないでしょうか?

金額の損得以上に、自分やパートナーの老後の幸福度・満足度に大きく関わってくるのが年金の選択です。

以下では、FP目線で注目したい4つのポイントを紹介します。

金額だけで見るなら「受給開始から12年」が損益分岐点

繰り上げ・繰り下げどちらでも、受給開始から約12年で損得が逆転します。

つまり「65歳からもらう人」と「70歳まで繰り下げた人」が同じ受給総額になるのは82歳頃です。以降は「70歳まで繰り下げた人」の受給総額が大きくなります。

金額だけを基準にするなら、「自分があと何年生きそうか?」という予測が大きな判断材料になります。

女性は「繰り下げ」で有利

日本の平均余命を見ると、年金の選択をする時点で女性は90歳前後まで生きる可能性が高く、男性より長生き傾向にあります。

そのため、繰り下げによって年金額を増やす選択は男性よりも女性にとって合理的です。

ただし夫婦の場合で「どちらか繰り下げ」ということあれば、遺族厚生年金も関わってくるため、一概に女性が繰り下げると有利とは言えません。

年金は「長生きリスクに備える保険」

「繰り下げて損した」という声の多くは、早く亡くなってしまった場合に出るものです。

ですがそもそも年金は、長生きリスク(=生きすぎてお金が尽きるリスク)に備える制度です。

長生きすればするほど繰り下げの効果が大きくなり、老後の生活不安を減らせるという本来の目的を考えると、「もし長生きしたときに困らないように準備しておく」という視点が重要です。

結果的に早く亡くなったとしても「損をした」と考える必要はないともいえます。

繰り下げ期間によるリスク

逆に、繰り下げをするリスクも考えてみます。

よほど裕福な方を除いて、繰り下げ期間は働くことになるでしょう。その際に消費される健康や時間は見えないリスクと考えることもできます。

無理に仕事を続けて繰り下げるよりも、体を大切にしたり、元気なうちに時間を有意義に使うことに価値があるかもしれません。

自分は長生きしたとしても、パートナーを早くに亡くしてしまい、「もっといっしょに過ごせばよかった」と後悔する可能性もあります。

「人生はお金だけではない」という点もふまえて、無理のない範囲で繰り下げを検討することが、後悔しないための大切な視点です。

まとめ|年金受給のタイミングで安心度が変わる

年金の繰り上げ・繰り下げは、「いつからもらうか」という一見シンプルな選択に見えて、人生設計に大きく関わる重要な判断です。

金額だけでなく「自分にとっての老後に大切なもの」を考えながら選択することが、後悔しないポイントです。

平均余命や損益分岐点といったデータも参考にしながら、最終的には自分の価値観を大切にしながら決めてはいかがでしょうか。

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